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令和 5年 10月号  238

国内養殖生サーモン


国内サーモン養殖の歴史と現状

宮崎県産の西米良サーモンが生のラウンド状態で手に入った。

西米良サーモンは、株式会社井戸内サーモンファームが日本育ちのエゾイワナとニジマスの中でも大きい部類に入るドナルドソントラウトをかけ合わせて作った、他にはないオリジナルのサーモンであり、2022年時点で全国に78ヶ所ある「ご当地サーモン」と呼ばれる養殖サーモンの内の一つである。以下の表はみなと新聞から発表された全国に位置する数々のご当地サーモンである。

そして以下の図は、水産研究・教育機構 瀬戸内海区水産研究所資源生産部 養殖生産グループ今井智氏が発表された平成30年時点の日本のサーモン養殖の現状であるが、この資料でも養殖の魚種としてはトラウトを含むニジマス系が一番多いことが示されている。

そのニジマスはアメリカ西部の太平洋側にそそぐ河川が原産地である。(以下のサケマスの歴史記事に関する内容は、MARUHA NICHIRO社のホームページSALMON MUSEUMの資料より参照し要約している)

日本のサケマス養殖は146年前の1877年(明治10年)に、ニジマスの卵10,000粒が北米より日本へ寄贈され、それと同時にふ化放流技術を導入したことからニジマスの内水面養殖が開始された。

1926(大正15年)に公布された「水産増殖奨励規則」を契機に、全国の都道府県にふ化場や養殖場が開設され、ニジマスの内水面養殖は盛んになっていった。そして、ニジマス生産量は1982年(昭和57年)に過去最高の18,230トン生産されたが、以後は減少し2004年(平成16年)の生産量は8,848トンとなった。ニジマス以外のサケマス養殖は、ヤマメ、アマゴ、イワナ、ヒメマス、ギンザケ等があり、これらは食用、遊魚、河川湖沼への放流、海面養殖用の種苗生産を目的として養殖されてきた。

いっぽう、サケマスの海面養殖は昭和30年代後半に始まり、昭和38年には広島県、昭和39年には静岡県でニジマスの海面養殖試験が行なわれたが、両方とも企業化には至らず終了した。しかし宮城県志津川漁協が1975年(昭和50年)ギンザケの海面養殖試験を行い成功させ、それからは全国の市場に養殖ギンザケを鮮魚で出荷するようになった。

ギンザケ養殖は、1991年(平成3年)の生産量が26,000トンとピークに達した。ところがノルウェー、チリ等の海外からの養殖サケマスの搬入の影響によって魚価が低迷することになり、事業メリットが失われて生産量は減少へと転じ、1996年(平成8年)には10,000トンを割り生産量は8,500トンまで減少した。 その後も魚価の低迷は続いたけれど、生産者による養殖コストの削減等の改善をおこないながら、宮城県を中心に10,000トン強の生産が続けられ、2021年現在で一部の僅かな天然物を含めたギンザケ全体の国内生産量は18,540トンとなっている。

2021年現在、この他のサーモンを含めた日本全体の養殖サーモン生産量は22,000トンであるが、同年に世界全体で養殖サーモンは4,128,000トン生産され、日本は僅か約0.5%のシェアしかなく、世界の中では18番目の地位でしかないのである。ちなみにサーモン養殖生産量世界一はダントツの1,657,000トンでノルウェー、2位は995,000トンのチリ、3位のイギリスでも日本の約10倍の生産量218,000トンである。つまり、日本は養殖サーモンの世界で、量的にはまったく存在感を示せない位置づけにあるのだ。


プレミアム養殖サーモン

このように養殖サーモンの生産量では影が薄いものの、上記したようにサーモン養殖の歴史は146年も前に遡るのだから、ほぼ1.5世紀に渡るサーモン養殖の知見はそれなりに積み重ねられているはずである。

例えば、今年の7月に岡山理科大学、NTT東日本、福島県のスーパーいちいが、共同で発表した「世界で初めてベニサケの陸上養殖に成功」というニュースは、日本のサーモン養殖の歴史に新たな光明を見いだすものと言えるだろう。

ベニサケは病気への耐性が弱く、成長も遅いため、これまで養殖することは難しいとされてきた。しかし岡山理科大学が保有する好適環境水の養殖ノウハウ・プラントシステムに加えて、NTT東日本グループが持つICT(情報通信技術)を組み合わせて作業の効率化、自動化、ベニサケの陸上養殖に最適な設備構築を進めた結果、2022年1月初めの養殖スタート時に約70グラム平均だったベニサケの体重は、ほんの1年半で平均800〜900g、最大で1,200g以上まで育ったということだ。通常ベニザケがこのサイズまで育つには、稚魚から出荷できる成魚になるまで4年はかかるとされている。

上記の「世界で初めて」という表現には「ビジネスベースにおいては」という但し書きが付いていて、既に2019年に岡山理科大学での実証実験レベルでは、ベニサケの陸上養殖に「世界で初めて」成功し、岡山理科大学自身が1,100尾ほどの養殖ベニサケを市場に向けて販売しており、今回の場合は「販売主体となる企業が本格的なビジネス展開を前提にした投資をおこない、その取り組みとして世界で初めて成功した」ということになる。

サーモン養殖において、日本は量的な意味で世界の中でまったく存在感を示せない位置づけにあるのは間違いない事実であり、これからの日本は長い養殖の歴史から培った知見を元にして、質的な面から独自の存在感を打ち出せるようにしていかなければならないと考える。

こういう点からすると、今回筆者が手に入れた西米良サーモンは、宮崎県井戸内養魚場代表の濱砂清男氏が約20年の歳月をかけ、日本育ちのエゾイワナとドナルドソントラウトをかけ合わせて生み出したプレミアムサーモンということであり、他の養殖サーモンとは質的な面での差別化が期待できるものと思われる。


西米良サーモン

それでは、以下にこのプレミアムな西米良サーモンを商品化した工程と出来上がりなどを紹介しよう。

この画像はウロコを除去した後の状態である。ウロコがなくなると魚体の体側にある赤い帯状の斑紋がクッキリと鮮やかに浮かび出てきた。このように帯状の斑紋が赤く鮮やかなほど鮮度が良いと判断して良い。

魚卵のおまけが出てきた腹出し工程
1,ウロコを取り終えて、頭の向きを変える。 5,何よりも優先して、そっと赤子を扱うようにして魚卵を取り出してから、内臓を除去する。
2,先ずはエラ膜を切り、アゴの付け根を切る。 6,比較的大きい血合いに包丁の切っ先部分で切り口を入れる。
3,腹部を縦に切り開き、肛門を過ぎて尻ビレの際まで切り進む。 7,ウロコ取り器具の裏面を使って血合いを完全に取り除く。
4,腹部を開くと、何とラッキーなことに、貴重な魚卵が顔を見せた。雌の指定はしていない。 8,腹出し処理を終えた魚体と魚卵。

失敗・・・、やらなきゃ良かったイクラ作り

ラッキーなことに、雌の指定をしていたわけではないのに腹の中から魚卵が出てきた。しかし喜んだのも束の間、イクラを作る作業に取り掛かるとその喜びはすっかり吹き飛んで、筋子にすれば良かったと反省したのだった。

養殖サーモンのイクラ醤油漬け作り工程
1,取り出した魚卵をバットに入れ、そこにぬるま湯の薄い塩水を注ぎ込む。 5,網お玉に途中までほぐした魚卵を入れ、濁った薄い塩水を捨てる。
2,魚卵を覆っている膜を破り、中から卵の粒を潰さないよう慎重に取り出す作業を開始した。 6,バットに残った魚卵に、新たな薄い塩水を入れる。
3,養殖サーモンの魚卵は天然の秋サケと違って脂タップリであり、ヌルヌルと滑って、しかも非常に小さなサイズだった。このため卵嚢から卵をなかなか取り出せず、非常に苦労した。 7,入れ替えた薄い塩水の中で、卵の取り出し作業を続け、白い粘膜を取り除くため、何回も同じことを繰り返す。卵を潰さないようにするので、この作業は実に神経を使う大変な作業だった。
4,別のバットと網お玉を準備する。 8,この作業に30分以上の時間を費やし、やっと水気を切って小鉢に盛りつけた。
最後に、醤油、酒、味醂を加えて、養殖サーモンのイクラ醤油漬けが完成。

 

このイクラ醤油漬け作りは本当に参った・・・。こんなことやらなきゃ良かった、と何度途中で放り出したいと思ったことか。秋サケのイクラ醤油漬けを作ることと同じ感覚でこれに臨んだのが大失敗だった。とにかく、作業をする指に脂分がベトベトにまとわりつくし、魚卵はとても小さく、どこからどこまでが卵なのか見分けられないのだ。本当に途中で作業を中止したくなったが、諦めずにやっとやり終えても、上画像のようにほんの僅かな量しか採れないのである。読者の皆さんのなかには、おまえアホやなと笑われている方もいらっしゃるかもしれないが、そうでない方は筆者のこの苦い経験を何か同じような場面に遭遇した時に活かしてもらいたいものである。

こうして出来上がったイクラ醤油漬けは、そのまま食べるのではなく西米良サーモンの商品価値を高めるためにあしらい的な使い方をして、自分の涙ぐましい苦労を慰めることにしたが、このことは後ほど商品化の際にコメントすることにしたい。


サーモン特有のあまり硬くない骨

次は西米良サーモンの三枚おろし工程である。特にこれと言って変わった方法で解体したわけではないが、それがどんな身質の状態だったのかを示すため、また読者の皆さんは必ずしも包丁技術に長けたベテランさんばかりではないと思うので、そういう人たちのためにも割愛せず、以下にその工程を紹介することにしよう。もし時間に余裕がなく、分かりきっている部分を避けたい人は、読み飛ばしてもらって全然問題ない。

西米良サーモンの三枚おろし工程

1,下身側の頭部付け根に切り込みを入れる

7,二枚おろしまで終了。
2,上身側の頭部付け根に切り込みを入れ、頭部を切り離す。 8,生サーモンは骨に硬度がないので、特にこれ以降の包丁作業は少し慎重にしないと中骨を切ってしまうことになりかねない。骨を切ってしまわないためのコツは、ソリを含む刃先を広く活用して切り進め、切っ先を多用しないことである。
3,下身側の尻ビレの際に切り込みを入れ、山高骨まで切り進む。 9,上身側の尻ビレ際に切り込みを入れ、山高骨まで切り進む。
4,下身側の背ビレ際に切り込みを入れ、山高骨まで切り進む。 10,頭部側に近い腹骨は、包丁を手前に起こし、刃先で押し切りするように動かして切り離す。この作業は無理して包丁を尾部側から頭部側へ動かして切ると、身割れ現象を起こしてしまう。
5,山高骨に沿って、包丁を尾部側から頭部側へと切り進める。 11,尾ビレ付け根のつながった部分を切り離す。
6,尾ビレ付け根のつながった部分を切り離す。 12,三枚おろしが終了。

 


西米良サーモントリムCの歩留まり率

さて、三枚おろしまでは終了したが、水産部門の作業現場で日頃ノルウェーから空輸された生のアトランティックサーモンを扱っている人は、たぶん真空袋に入れられたトリムCやトリムE状態から、刺身、鮨、切身などへ商品化する作業をされることが多いのではないかと思う。

仮に生のサーモンを解体するとしても、たぶん丸のラウンドではなくエラ腹抜きのセミドレス状態からしか経験ない人が多いのではないかと思われる。今回の筆者のように生のラウンド状態から養殖サーモンを解体するということはあまりないのではないだろうか。

そこで、今回のラウンド状態の西米良サーモンをノルウェーアトランティックサーモントリムCのようにした場合、歩留まり率はどの程度になるかやってみることにした。但し、筆者は誤って腹ビレとピンボーンをサッサと除去してしまっていたので、空輸アトランティックサーモンのトリムCよりも少し歩留まり率は悪くなる。

西米良サーモンのトリムC
1,三枚おろしにした上身側の半身。 4,腹ビレを除去する(トリムCでは行わない)
2,腹骨を除去する。 5,ピンボーンを抜く(トリムCでは行わない)
3,腹腔の薄皮まで除去する。 6,半身の重量は454g

 

このように、本来のトリムCの形態とは少し違うことをおこなってしまったけれど、半身を計ってみると重さは454gだった。これを単純に2枚分として2倍にすると908gとなる。西米良サーモンラウンドの元重量は1.7kgだったので、この歩留まり率は53.4%という計算結果になった。ほぼ同じような皮付き腹骨無し三枚おろしの養殖魚で比較すると、季節要因に左右される側面を無視し、常識的な経験値からすると、養殖マダイは35%、養殖ブリは45%ほどの歩留まり率になるから、この歩留まり率は比較的良い結果である。

今回筆者が購入した西米良サーモンは雌の魚卵入りだったので、内臓重量も比較的大きいはずであり、歩留まりは雄よりも不利だと考えられる。しかも腹ビレとピンボーンを除去していて、それでも53.4%という歩留まり率なのだから、歩留まりという観点からは非常に優秀なレベルだと見て良いだろう。

西米良サーモンの購入価格については、業務として仕入れる各社の立場や事情も色々あるだろうから、ここでは敢えて公表しないことにしておきたいが、まあ皆さんが日頃仕入れているノルウェー空輸の生アトランティックサーモントリムCとほぼ同じ価格になったと考えてもらえば良いとだけ言っておきたい。

仮に西米良サーモンと空輸生アトランサーモンとが同じような価格で手に入るとすると、ノルウェーからほぼ10日ほどの日数かけて日本各地の店に運ばれている空輸生アトランサーモンと、国内の産地で手間暇をかけたプレミアム養殖サーモンのどちらを皆さんは販売したいのかということになる。

これまで刺身用のフレッシュ養殖サーモンはノルウェー以外の選択肢はなかなか難しかったけれど、ここ最近活発になっている国内のご当地サーモンの勢いからすると、これからはノルウェーの言いなりにならざるを得ない状況から脱することの出来る光明が見えてきているのではないかと思われる。


西米良サーモンの商品化

さて、生サーモンのノルウェー頼りから脱する光明の一つになるかもしれない西米良サーモンを、プレミアム養殖サーモンらしく価値を高めるための商品化例を以下にいくつか紹介しよう。

次の作業工程として皮を引いたが、皮下脂肪がタップリでとても楽に皮引きをおこなうことが出来た。

筆者は空輸生アトランティックサーモンの場合、ノルウェーで漁獲されてから10日間ほど経過しているのが原因かもしれないが、血合い部分の生臭さがとても気になる。日本で生サーモンは今やマグロを抜いてナンバーワンの人気鮨ダネだと言われているけれど、そんな中でもサーモン嫌いの人はそれなりの数が存在しているのである。サーモンが嫌いな理由の第一は生臭さにあるようで、これはカツオのタタキが嫌いという人と共通するものがあり、そのどちらも根本原因は血合いを除去せずに残していることだと見ている。

このため筆者は、これまで刺身用に冷凍サーモンを使用している魚売場で、これを価値の高い生サーモンに切り替えることを勧める際、明らかな違いを出すための手段として生サーモンの血合いを削り取ることを推奨してきた。鮮度によって違いは出てくるが、このことによって少なくとも生臭さは低減される。血合いがなくなった分原価は高くなっても、生サーモンを使った刺身や鮨の商品評価が生臭さがなくなることで高まれば、これが売上に貢献することになると言い続けてきたのだ。

しかし、今回の西米良サーモンでは輸入生アトランティックサーモンのように血合いを削ることはしなかった。なぜなら筆者が購入した西米良サーモンは前日に養殖場で水揚げされたものであることが明確で、それはまさに鮮度抜群だったからである。

国内のご当地サーモンを、トレーサビリティを元にして日数を逆算しながら仕入れることが出来るのであれば、鮮度的にこれほど心強いものはない。生臭さを理由として血合いを削る必要はないので、歩留まり率は下がらず原価は低減できるのである。

素晴らしい鮮度の西米良サーモンを使った商品化例は以下の通りである。刺身と鮨に関しての作業工程は割愛し、そのポイントだけをコメントしている。

西米良サーモンの商品化例

1,サーモンづくし刺身盛り合わせ

平造りは背身、薄造りは腹身を使用。炙りにはオニオンスライスとパセリの微塵切りをトッピング。刺身の中心に手作りイクラ醤油漬けを添えている。

2,サーモンづくし鮨盛り合わせ

上段は背身のにぎり鮨。中段に腹身の炙りにぎり鮨、これにオニオンスライスにマヨネーズをトッピングし、これにパセリ微塵切りを加えている。下段の左には角柱状の巻き芯を細巻きにし、下段の右側に商品化の際に出てくるサーモンの端材を大盛りの軍艦にしている。

3,生サーモンの裏巻き鮨

シャリの量は約200g、巻き芯にサーモン、だし巻き玉子、レタスをいれた。レタスはあしらいとして裏巻きの下にも敷いて色出しをしている。容器の関係で見た目がギュウギュウ詰めの印象を与えないように6カットにした。

4,サーモンカルパッチョサラダ

丸い容器の底全体にちぎったレタスを敷き、そこにオニオンスライスとパセリを加え、ミニトマトとレモンスライスを丸く囲むように配置した。そして薄くスライスしたサーモンを適度に配置し、中心にはサーモンのバラ造りを据え、最後に手作りイクラ醤油漬けをバラの中心及び全体に散らして配置した。

 

商品化の最後は、サーモンに火を通した料理である。

サーモンと茄子の香味ソース漬け
1,サーモンを3×6p角に切り、塩コショウをして、小麦粉をまぶす。 5,サーモンを色づくまで揚げる。
2,茄子は縦半分に切り、斜めに切り込みを入れ、一口大にしたものを170℃の油で薄く色づくまで揚げる。 6,しっかり色づくまで揚げたら、揚げ油から取り出す。
3,色づくまで揚げた茄子の状態。 7,揚げたサーモンを香味ソースに入れる。
4,香味ソース(醤油、酢、砂糖を各大さじ4,水、ごま油各大さじ2、レモン汁大さじ1/2)に茄子を15分以上漬ける。 8,香味ソースとサーモンを混ぜ込み、常温で冷ましてから、皿に盛りつける。
冷めても美味しく、日持ちする、サーモンと茄子の香味ソース漬け

サーモン養殖の盛衰と興隆

2023年9月末現在、円の為替相場は1ドル149円台となり、150円台突入が有り得る状況にある。いよいよ円安は常態化してきていて、今後よほど世界情勢の変化がない限り、円の対ドル相場が以前にあったような100円〜110円台などといった大変化は基本的に起こらないと予測される。

こうした状況を踏まえると、これまで水産業界を含む食品の世界で頼り放しになってきたノルウェーなどからの輸入サーモンは、円安によって価格が高止まりし、これまでよりもこれらが安く購入できるようになるなんてことはまったく期待できないと心得るべきであろう。そうなると、今月号でのテーマとして扱った西米良サーモンを始めとするご当地サーモンの存在は、業界にとってある意味で救世主的な存在となるかもしれない。

サーモンの養殖業者からすると、養殖に必要なエサ代や電気代など運営維持費の高騰もあり、そんなに安く出来るものではないとなるのかもしれないが、何とか輸入サーモンに頼らなくて済むような体制を、ご当地サーモンを運営している事業者の方々に期待したいものである。

筆者はもう60年以上前の小学生時代、山奥の地域でニジマス養魚場を自分の目で間近に見た覚えがあり、その養魚場はその内に消えてなくなっていた。日本の養殖魚の歴史を辿ってみると、養殖魚事業は146年も前からスタートしたものの、このようなサーモン養殖に取り組んだが上手くいかずに廃業するといった盛衰を経てきたようである。しかし今やJRやNTTなどを含む異分野の大企業が、サーモン養殖へ資本投下しての参入も相次いでいて、このところサーモン養殖の業界は再び活況を呈しようとしているようである。

安定した売上と利益を誇る異分野の大企業が、日本におけるサーモン養殖事業を軌道に乗せるため、お手伝いしてくれるのであればそれは大歓迎である。サーモンは何と言っても人気ナンバーワンの魚なのだから、大企業もまだまだ需要は大きいとの調査分析結果を出しての取り組みなのであろう。

水産商品の販売に関係する人たちは、もし輸入サーモンと国産サーモンが同じ価格で手に入るのであれば、是非とも国産サーモンを優先して仕入れることで、ご当地サーモンの事業を支える努力をしてほしいものである。


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水産コンサルタント樋口知康が月に一度更新している
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                 更新日時 令和 5年 10月 1日