魚種・テーマの索引
 
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平成28年 6月号
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No.143-2 海を隔てた魚食の違い
平成27年11月号
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No.131 ロブスター刺身姿造り(平成26年11月号)
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No.129 紅鮭ステーキ(平成26年9月号)
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125 メバル薄造り(平成26年5月号)
124 旬のアマダイの鮨と刺身(平成26年4月号)
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平成30年 6月号 174

アジ

マアジのバラエティ


あまりにも知られすぎた食用大衆魚

筆者は最近ある人から「FISH FOOD TIMES ではなぜアジを取り上げないのですか?」と聞かれた。その時は「何故なのか自分でも分からないけど、その機会がなかったからではないだろうか」と適当に答えていた。

しかし後でそのことを振り返って考えてみると端に機会がなかったわけではなく、本当の理由は「昔から日本人が普通に食べてきた、あまりにも一般的な青物大衆魚のアジという魚を今更どういう風に記事として扱って良いのだろうか・・・」という疑問が頭にあったからだと思うことになった。

これまでアジ類について全く触れることがなかったわけではなく、No.94 ゼンゴ背越し造り (平成23年10月号)では豆アジについて言及していたし、69 ロウニンアジ平造り(平成21年9月号)ではアジ科ギンガメアジ属のロウニンアジを取り上げていたので、アジという魚を無視していたわけではないのだが、これがアジの代表のマアジとなると一般的にあまりにも良く知られすぎているだけに逆に扱いにくいという印象を持っていたのである。

だが既に足かけ15年目となっている FISH FOOD TIMES で、食べる魚としては主力中の主力とも言えるマアジに言及することをこのまま避けて置くわけにはいかないだろうとの思いに至った。しかし問題はどういう風に扱うかであり、 FISH FOOD TIMES 読者として想定している「魚販売のプロ」にマアジの何を伝えるかを考えてみると、ほとんど世に知られていない特に面白いことを記せるわけでもないと思われるので、今回その記述内容の視点を「マアジ販売のヒント」としてみたい。


マアジとアオアジの違い

アジ

上画像は説明するまでもなくマアジであるが、浅海の岩礁域に定着する瀬付き型と、外洋を回遊する回遊型でその見た目は少し異なっていて、瀬付き型は全体的に黄色みが強く、ふくよかで丸みがあり、回遊型は全体が黒っぽくガッチリと筋肉質て細長い。マアジは、英名Japanese horse mackerel、学名Trachurus japonicus であり、英名も学名も共に日本の名前が冠せられている。

その姿が良く似ているのは下画像のアオアジであり、英名Japanese scad、学名Decapterus maruadsi である。

アオアジ

マアジとアオアジの違いはアオアジを頻繁に扱っている人であれば、ヒラアジとも呼ばれる平たい感じのマアジと違って、アオアジはマルアジの別名があるように、丸っぽい姿とマアジよりも取り外しにくいウロコの感触で一瞬で分かる。さらにもっと明らかな身体的な違いは下のアオアジ画像の丸い囲いの部分にある小離鰭(しょうりき)と呼ばれる小さな上下のヒレが、アオアジにはあるがマアジにはない。

アオアジ

アオアジ

 

アオアジはマアジより比較的南の海域に生息し、漁獲が多いのは秋から冬にかけてなので、春から夏が旬とされるマアジとは獲れる時期がずれている。一般的に市場での評価はマアジの方が上になっているのだが、これはマアジの方がアオアジよりも皮を引きやすいことからも分かるように、マアジの方が皮下脂肪を含む脂分が多く美味しく感じられることから下されている評価だと思われる。

ついでに、アオアジよりもっと脂肪分が少なく血合いが目立つアジとして、更に南方の海で生息しているムロアジも紹介しておこう。下の画像は南西諸島のある島の魚市場で筆者が撮ったものだが、島では獲れたばかりのムロアジはマアジのように刺身でも食べられていて、クサヤなどの開き加工品になっているだけではないことは知っていてほしい。

アオムロアジ   アカムロアジ

アオムロアジ アカムロアジ

 


マアジの漁場と漁獲地

さてマアジに話を戻すと、マアジは下の図にあるように太平洋側よりも主に東シナ海から日本海側の方で多く漁獲され、日本の年間漁獲高の半分ほどが長崎県と島根県で水揚げされている。

マアジ

       
農林水産省『農林水産統計』平成28年
マアジ
1位 長崎県 55,100d
2位 島根県 24,200d
3位 宮崎県 11,000d
アオアジ
1位 宮崎県 8,500d
2位 鹿児島県 4,600d
3位 和歌山県 3,200d
アジ類合計 155,200d
 

なかでも日本遠洋旋網(まきあみ)漁業の基地である長崎県松浦市の松浦魚市場は、アジだけでなくサバも含めて日本一の漁獲量を誇る魚市場であり、そこは日本のアジ類一大供給基地となっていて、全国の干物業者などもこの魚市場から商品原料となるアジなどの供給を受けているところが多いようだ。

matsuura  アジ

長崎県松浦市は佐賀県との県境に近い長崎県北部に位置し、松浦魚市場の卸売り会社が西日本魚市株式会社であり、平成28年度のアジ類年間取扱い推移は右上グラフのようになっている。赤い折れ線は4月から7月頃までの4ヶ月間が年間の中で水揚げが一番多いことを示していて、たまたま平成28年度のグラフは6月が不漁だったようだが、直近資料の平成29年度の途中までの資料によると6月は7月に次いで2番目の水揚げがあったようで、本来は6月もアジ類の水揚げピークの季節であるのは間違いない。

長崎県では沿岸物の「ゴンアジ」と沖合物の「旬あじ(トキアジ)」を長崎ブランドとして全国に売り出しているが、他にも全国にはブランドアジとして特に有名な関アジ(大分)をはじめ、瀬付きあじ(山口)、天領アジ(熊本)、美々鯵(びびあじ)宮崎、などブランド名のついたアジは多い。そのなかでも島根県浜田市の「どんちっちあじ」は脂質含有量の数値化の特徴でライバルを差別化している。その基準とは期間が最も脂がのる4月から8月の間に水揚げされたサイズ50g以上のマアジで、専用の機器を使って脂質含有量の平均が10%を超えたものだけを「どんちっちあじ」として認定しているとのことだ。


旬のマアジはブランドアジに劣らない

全国の各地ではこのように独自の基準をクリアーした優良なアジをブランドアジとして売り出しているが、それはそれで素晴らしいことに違いないと評価するとしても、4月頃から7月頃までの旬のマアジは年間の中でも特に漁獲が多くなることから価格もこなれ、鮮度の良いものも多くなり脂も乗っているので、ブランドアジでなくても非常に美味しくなる季節なのである。

この時期は特に豆アジ(ゼンゴ)や小アジも多く漁獲され、大盛りのアジがコスパ感に優れた価格で売られることも多くなるので、以下の画像のような魅力的商品も各地で提供されることになる。

旬の豆アジ小アジ商品化
豆アジ 小アジ
豆アジ( ゼンゴ) 小アジ
アジ背越し マアジにぎり鮨
豆アジ(ゼンゴ)背越し造り 小ジ半身にぎり鮨
マアジ アジ
豆アジ小切り刺身 小アジ小切り刺身

 

上画像では豆アジ、小アジといった春から初夏の季節に多くなるマアジを刺身や鮨として生食する商品を紹介してみたが、現場感覚からするとアジ類の商品ほど消化率が高い商品は他にないという感じであり、日本人の嗜好と味覚にあった根強い人気を誇るのがアジ類だと思われる。極小のゼンゴと呼ばれる豆アジから、巨大なガーラやGTとも称されるロウニンアジまで、日本人が大好きなアジという魚は実に様々な魚商品として販売されているが、やはり何と言っても生食できる鮮度の良いアジを刺身や鮨で食べることが一番価値があると思われる。

例えば小アジは、刺身まで加工度を高めて付加価値を高めなくても、以下の画像のように半身で販売することでお客様にその後の料理の自由度を与える方法も有効である。

マアジ   マアジ

     小アジ刺身用半身                小アジ刺身用半身(鹿の子飾り切り)

中アジのSKU商品化

小アジのことはこれくらいにして、次に中アジのことを商品一覧表の形で以下に紹介しよう。

中アジのSKU商品化
アジ アジ
エラ腹抜きセミドレス 頭なしドレス
アジ アジ
二枚おろし 三枚おろし
アジ アジ
頭付き背開き 頭なし背開き
アジ アジ
セミドレス二つ切り 二枚おろし四つ切り
アジ アジ
皮付き半身4枚 皮なし半身4枚

 

中アジは様々な料理に活用しやすい大きさであり、特に刺身にすると容器の中で見栄えがするので、大アジや小アジよりも付加価値を高めやすく、以下の画像のような刺身商品に積極的に活用したいものだ。

アジ刺身

中アジ刺身1尾盛り

 

さらに中アジの大きさを活用して付加価値を高める方法として姿造り刺身がある。

 マアジ姿造り  マアジ姿造り

中アジ一体型姿造り刺身の台作り 中アジ分離型姿造り刺身の台作り

 

マアジ姿造り  マアジ姿造り

 中アジ一体型姿造り刺身 中アジ分離型姿造り刺身

 


アジの弱点をカバーする「なめろうと山家焼き」

さてここまでは比較的安価な値段で手に入れることの出来るマアジを使って、商品の価値を最高レベルまで高められる姿造り刺身まで紹介してきたが、アジ類が共通して持っている弱点の一つは「変色が早い」ということである。アジの鮮度がどんなに良くても悪くても、皮を除去されて空気に晒されたアジの身は時間の経過とともにどんどん変色して黒ずんでいくのはサバやイワシなど青魚に共通のデメリットである。

そこでこの弱点をカバーする方法を以下に紹介しよう。資料によれば昔の漁師たちはアジなど獲れた魚を船の上で味噌といっしょに細かく叩いて料理を作って食べていたとのことだ。この漁師料理は「なめろう」と呼ばれていたが、この料理はあまりにも美味しいので皿を「なめる」ようにして食べたのでこの名前がついたとも言われている。そして漁師は山へ仕事に行く時には、アワビの殻の中に余った「なめろう」を入れて持って行き、山小屋で焼いて食べていたようで、船の上ではなく山の家で食べた料理を「山家(さんが)焼き」と呼ぶようになったとのことだ。

その「なめろう」と「山家焼き」の作り方を以下に紹介しよう。

なめろうと山家焼き
アジ アジ
1,皮を除去した半身の血合い骨を切り離す。 5,生姜を加えて小さく叩いて切り刻む。
アジ アジ
2,半身を縦に細く切り離す。 6,更に刻んだネギを加える。
アジ アジ
3,長く細く切った身を横にして小さく切る。 7,味噌を加えて切り混ぜる。
アジ アジ
4,小さく切った身を更に小さく叩き切る。 8,最後に適量の醤油を加え混ぜる。
アジ
アジのなめろうの完成
アジ アジ
1,一塊のなめろうを鍋に入れる。 3,焦げ目がついたら裏返す。
アジ アジ
2,酒を少し加えながら蒸し焼きにする。 4,芯に熱が通るまで蒸し焼きする。
アジ
アジの山家焼き

そろそろ今月号も締め括りに入るとしよう。日本の食文化を語る時にアジというのは欠くことの出来ない重要な存在であると考えられ、縄文時代の貝塚からアジの骨が発見されたことからも、日本人は昔からアジを食べてきたことが証明されているし、今も手軽な魚料理として家庭では食卓に出る頻度の高い魚の一つであると言えよう。

アジは大昔から日本人が様々な料理にして食べてきた魚であり、江戸時代まで四つ足獣肉を食べることを仏教の影響で禁止されてきた日本人は主に魚を動物性タンパク源として摂取してきた歴史がある。その魚の一つとして多獲性青物大衆魚のアジは、干物などに加工されて一般大衆にも数多く食されてきたことから、日本人の血の中にはアジの血の一滴が潜んでいると考えてしかるべきであろうと思う。

アジという魚は、これからも資源の盛衰を繰り返しながらも、日本人の食生活に深く関わりを持って食されていくと考えられ、特に今回取り上げたマアジはアジ類の中でも美味しさで一等際立っていることから、日本人に好まれ愛され続けていくのは間違いない。そんな日本人の生活に根ざした食べ物を魚の販売者としてお客様に提供していくことができることは幸せなことだと言えるだろう。

そんな歴史的な意味を含めた大きな存在のアジについて、今月号でどれだけのことを記すことが出来たか心許ない気持ちでいっぱいあるが、記述視点として「マアジ販売のヒント」は幾分なりとも表現できたのではないかと思う。

これから6月7月にかけて、美味しいマアジが数多く漁獲され価格もこなれて販売しやすい季節がやってくる。読者の皆さんが今月号で掲載している商品を多少参考にしてマアジを販売してくれたら幸いである。


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更新日時 平成30年 6月 1日