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平成24年 7月号 No.103



Bad money drives out good money

 

 

ウナギ素焼きザク切り        ウナギ蒲焼きスライス

 


252万円。

これは、丼一杯分の価格である。

どんな丼かというと、ウナギの稚魚シラスがちょうど1s入るくらいの丼だ。

252万円とは今年3月にウナギシラス1sについた最高の取引価格のことである。

丼一杯約1キログラムで、約5,000尾前後のシラスウナギが入っているので、この段階で1尾当たりの価格は約500円という計算になる。

これに餌代、養殖池のハウスを暖める重油代、人件費、利益、更には養殖が終わってみないと分からないシラスウナギの死亡による生存歩留まり減少、その他のコストがこれに上乗せされると、成鰻の価格はいったい幾らになるのか。

今年6月になって出始めた三河地区の活鰻新子の池揚げ価格は、5P4,500円、4P4,100円、ヒネ子は5P4,000円、4P3,650円くらいだから、これを蒲焼きにすると、焼き上げ後の歩留まりが50%までは下がらないとしても、

加工作業に必要な諸経費を上乗せして、仮に2倍の価格になると見ると、今年の新子ウナギ蒲焼き価格は、s当たり9,000円前後は覚悟しなければならない。


一部の地域では6月に入り、国産ウナギ蒲焼きの取引価格はs当たり10,000円を超えた、という情報もあるが、これが仮に50尾サイズだと1尾原価は2,000円となってしまう。

仕入れ段階でその価格なのだから、小売ではいくらになるのかということだ・・・。

そんな「とんでもない売価のウナギ蒲焼き」は普通の庶民なら簡単に購入出来ない。

あまりにも高くなったウナギ蒲焼きは「特に無理して食べなくても良いョ・・・」と、お客様の判断が購入拒否の流れに傾いてしまうと売上確保はとても苦しい。

7月は、丑の日を含めてウナギの売上に大きく依存する業界は非常に困ったことになる。

スーパーの7月度ウナギ売上高構成比は、水産部門の10%〜20%位だといわれており、仮にウナギの売上げが半分になれば水産部門売上は5%〜10%減の影響を受けるのだ。


もう既に「ウナギ蒲焼き離れ現象」は5月頃から出始めていて、6月のウナギ蒲焼きの売上げ前年比が50%割れを生じている会社も決して珍しくはない。

現行各地の売価はサイズによって違いはあるが、中国産で1尾1,000円〜1,500円前後、国産で1尾1,500円〜2,000円程度というのが一般的のようで、昨年までの1尾980円以下という売価は基本的に売場から姿を消した状況である。

売上低迷状況がこのまま続けば、7月度ウナギ蒲焼き売上げは激減ということになって、ウナギ売上高構成比の高いところほど、今年の売上予算達成難しいことになってしまう。


そこを何とかして売上予算を達成しなければと責任者が頭を捻った結果、その方法の一つとして「売り易い代替商品」を別に準備するところも出てくるものだ。

今や売場では普通の光景となっている中国産や台湾産のウナギ蒲焼きの存在は、元を辿れば以前国産ウナギのジャポニカ種(Anguilla japonica)が高くなったために、

その代替商品として最初は台湾、次に中国から安いウナギを輸入してきた歴史がある。そしてジャポニカ種だけではなく、フランス種とかヨーロッパ種とも呼ばれる、少し毛色の違うアンギラ種(Anguilla anguilla )を輸入することでも需要を賄ってきた。

ところが、ご存知のようにジャポニカ種のシラスが日本だけではなく台湾や中国でも、今年3年連続の不漁となって養殖のための玉が無くなってしまった。

それだけではなくアンギラ種は原産地のフランスなどがシラスの輸出規制を開始して、これまでの代替手段だけでは需要の量を確保できない事態となってきた。


そこで、そういう事情の中から新たに出てきたのが「フィリピンウナギ」や、「アメリカウナギ」Anguilla rostrata(アンギラ ロストラータ)という異種ウナギたちだ。

まずその中の一つ、フィリピンウナギについての事情だが、このウナギは、東京大海洋研究所が02年と04年にフィリピン東方沖で、調査船の網に入った「ナゾのウナギ」に注目し遺伝子を調べたところ、その後の調べで、それまで知られていた18種・亜種のいずれとも一致せず、新種らしいことがわかった。

ウナギの新種報告は、1938年にオーストラリアのチームが、パプアニューギニアで発見した「ニューギニアウナギ」以来のことであり、下の画像のこの新種は「アンギュラ・ルゾネンシス」という学名が名付けられた。

出典 アニマルニュースより

画像ではよく分からないが、ニホンウナギに比べ胴が太くてずんぐりとしていて、フィリピンの現地では背開きにして薫製にしたものが食用とされているとのことで、脂はのっているものの、どちらかと言えばサッパリとした味ということだ。

この新種ウナギのシラスは既に中国に持ち込まれて養殖実験がされていて、早くも中国では価格の高いジャポニカウナギの代替品として活用されているとのことだ。


次に現在注目されているのが、アメリカウナギである。

このウナギは古くから知られているジャポニカやアンギラと並ぶ三大品種であり、一億年前の白亜紀まで元をたどれば、三種はインドネシア海域から派生した兄弟なのだ。

アメリカのメーン州からフロリダ州に至る広範囲の東海岸の河口域で獲れ、これらは全て天然のウナギであり、その活鰻が生きたまま輸入されている。

 

出典 SankeiBiz(サンケイビズ)

画像では判別しにくいが、ジャポニカ種より頭が長く、色も黒っぽい姿をしており、味については天然物だけに脂分が少なく淡白な味だとの評価だ。

アメリカでも天然物の個体数は年々減少傾向にあるということから、これから産業として成り立つためには養殖を考えていかなければならないけれども、アメリカにおいては、まだそのような事業は存在していないようだ。

しかしウナギ養殖に積極的な中国では、これについても既に養殖実験が開始されており、今年もアメリカ種のシラス約2d が池入れされたということである。

気性が荒く「共食いをするので養殖には向かない」という技術的な難しさを乗り越え、養殖技術は確立されつつあるようで、生存歩留り率は7割程に向上しているとのことだ。

中国において現段階ではアメリカ種もフィリピン種と同じく輸出向けではなく、中国の国内だけで活鰻として流通しているとのことだが、本当にそうなのだろうか。

例えば養殖のアンギラ種とジャポニカ種を食べ比べた時に、その味の違いをどれだけの人が判別できるかを考えると明らかに不安である。

アンギラ種とジャポニカ種をこのような蒲焼きの状態で見分けようとすると、フランス種は画像のように太くて短い姿をしているので多少判別つくけれども、小さく切られ、暖められてタレをかけられたら、夫々の違いは本当に分かるのだろうか。

もしかすると出所の曖昧な安物ウナギの中に、それらは混じっていないのか・・・。

ウナギ業界はヌルヌルと底知れぬ魑魅魍魎の部分があって単純ではないようであり、業者の言い分を頭から信用すると手痛い目に遭う事もあるようなので気をつけよう。


ところで、代替手段はそれだけではない。

例えばこの画像はサンマ蒲焼きだが、この他にも穴子やイワシの蒲焼きなどもある。

売れない高いウナギ蒲焼きの代替商品としてこれらの低単価商品を数多く販売して、その売上減をカバーしようとしている企業もあるようだ。

しかし蒲焼きという食べ物は、味が甘ったるくてしつこいのが普通であり、こういう味の食べ物を一人で10尾も20尾も買う人はたぶんいないはずだから、せいぜい一人に1尾分か2尾分までとすると、低単価なので大した売上金額にはならない。

これでは売上を上げるには却って逆効果にしかならないことになる。

なぜなら、ウナギ蒲焼きならば1尾でも1,500円や2,000円の売上になるのだが、サンマの蒲焼きを多少売ってもウナギ蒲焼き2〜3尾分の売上に到底追いつかないのだ。

目先の売上100円、200円を確保するために、サンマの蒲焼きを必死で売り込み、結果としてお客様を「ウナギではなく、サンマで我慢しよう・・・」と決断させ、ウナギ蒲焼きという高単価商品を、売り損なってしまうという事になりかねないのだ。

そういう自分で自分の首を絞めるような馬鹿げたことを平気でやってはいけない。


イギリスの王室財務官を務めたグレシャムという人が唱えた「グレシャムの法則」は、

Bad money drives out good money.(悪貨は良貨を駆逐する)

「良質なものはあまり流行らず、質の低劣なものほど流行る」

という意味のことを16世紀に言ってのけているが、

まさにそんな現象が蒲焼きの世界で起ころうとしていると見るべきであろう。やはり基本姿勢としてはウナギ蒲焼きを変な代替商品とすり替えるのではなく、高くなったならば高くなったなりの価値を正々堂々とアピールすべきなのだ。

しかし高額をお客様に押しつけるだけではスンナリと購入に結びつくはずはないから、そこには「買い易さ」という面を、一捻りも二捻りもして考えるべきなのであろう。


今年の場合ウナギ蒲焼きを1尾購入するのに1,000円札1枚では足りなくて、2枚は用意しなければならないというのは主婦にとって勇気のいる決断のはずであり、

やはり丑の日以外の通常日は、何か別の形によって買い易さを実現しなければならない。

例えば1尾の長焼きを20切れにカットすれば20分の1の売価になるのだが、これを20分の1単位で売るわけにはいかないので、4分の1の5切れ分で商品化すれば、少なくともワンコインほどの売価に納まることが可能となるはずであり、そのあたりの売価帯を狙ったのが巻頭の画像である。

ボリューム感を付けるためにウナギ蒲焼きと相性の良いキュウリのスライスを付け、素焼きはもっと小さくザク切りにして、ポン酢を添えて「うざく風」にしている。

発想を変えれば付け合わせをキュウリでなくモヤシにするとかもあるだろう。

ウナギ蒲焼きがこれだけの高い売価の商品になってしまうと、これを単体だけで何の付加価値も付けずに販売するのは難しくなってきたとも言える。

いよいよ、ウナギ蒲焼きもしっかり知恵を出さなければ売り難い時代になったようだ。


更新日時 平成24年7月 1日


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