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平成20年 10月号



   イソマグロ平造り

  <コスパ盛り>




見ての通り、これは生のマグロ刺身である。

しかし、チョットだけ珍しいマグロ、イソマグロだ。

入荷した時、ラウンドで18.9kgの大きさだった。



他のマグロと同じように、サバ科の仲間ではあるが、イソマグロ属であり、マグロ属とは少し毛色が違う。

クロマグロと同じように胸ビレは短いけれど、背の色はクロマグロのように黒い色ではなく、全体的に鈍い銀色に輝くような肌をしているし、背の方から尾の方にかけて、少し湾曲した側線があるのが大きな違いである。


この巨体を解体した時、一番面白いと思ったのは、エラの形だった。


普通の硬骨魚であれば、柔らかくて粘膜状のエラ膜がある位置に、ご覧のように鋭い棘状の突起が、両端のエラの付け根に存在している。

最初は包丁でエラの両端に切目を入れてから、素手で取り外そうとしたけれど、掴むとあまりにも鋭い棘が左手に痛く、途中から軍手をつけて作業を行った。

この棘はいったいどんな役割をするのか全く見当がつかなかった。


次に面白かったのが、異常に長くて大きい胃袋であり、更にはそれと好対照に、魚体と比較するとあまりに小さい心臓だった。


解体は20kg未満程度なので、節おろしではなく普通に三枚おろしにした。


読者諸氏の賢明な人は、この写真を見ると「やはりマグロとは違うな・・・」

と理解される人も多いのではないかと思う。

そうである・・・、明らかに違うのは「血合の量」だ。

高速で大海を広く動き回るマグロ属は酸素をエラから大量に摂取し、これを第2の肝臓と言われる血合へと送り、血合の血液から酸素を受け、脂肪を酸化させながらエネルギーにしているらしい。

「磯マグロ」と言われるゆえんは、黒マグロのように何千キロも回遊をするために大海へと泳ぎ出さず、比較的狭い範囲を小さく回遊しているから、血合を発達させて大きくする必要もないようである。

つまり「磯」の名前を冠している証が、この小さい血合がなのだ。




これは冊取りをした後の写真で、パイレスの上の左側と真ん中が背身、右側の一塊が腹身である。

もちろん冊取りの前に、ほとんどの血合は削っているが、その印象として「マグロ・カツオ類より、数段歩留りが良い」と感じた。

マグロ・カツオ類の歩留り率は、セミドレスではなくラウンドからだと、血合が多いために、せいぜい「33%〜35%」にしかならないが、イソマグロの場合、たぶん40%以上45%近くにはなる。

しかもこの日の仕入価格は100円/kgなのだから、ビックリ仰天である。

18.9kgの魚を仕入れて、1尾が1,890円なのだ。

イソマグロは「美味しくない」という低い評価があるようで、「買い手」がつかないから、こんな捨て値になったようだ。

これを冒頭写真の刺身を480円というお買得価格で設定してみた。

他に小さめの商品化なども含めてイソマグロ一尾分の売価を合計してみたら、なんと14,170円に化けたのである。

これほどの妙味のある魚なのに、市場ではそっぽを向かれ、誰も仕入をやりたがらないイソマグロの味とは一体どんなものなのか。

本当にそんなに不味いのか・・・と、何度も何度も色んな部位を生で味見してみた。

確かにマグロ・カツオ類の味わい深い旨味と比べると、脂肪分が少なく、際立った味の特徴もなく損はしているけれども、どの部位も「決して不味くて食べられない味なんかではない」と感じた。

このイソマグロを、マグロだからといって「近海生マグロ」などと、紛らわしい表現で売るようなことは絶対にしてはならない。

日本のある地域ではハガツオ(筋カツオ)のタタキを、平気でカツオタタキと表現し、いかにも本ガツオのタタキのような扱いで、商品化をしている店があることを知っているが、これもハガツオ属というカツオ属とは別種の魚であり、絶対にやってはいけないことなのだ。

いまだにこんな「騙しの商売」を平気な顔で堂々とやっている魚屋や魚売場が、結局廻り廻って自分たちの首を絞めているのを自戒すべきである。

イソマグロを売る時はその名前を明確に表示し、仕入価格に連動した、それなりに割安感のある売価で提供すべきだ。

「生マグロがどうしてこんなに安いの?」とお客様から尋ねられた時、イソマグロとはどんな魚なのかをきっちりと説明し、その違いを納得して購入してもらいたいものである。

魚屋の商売は意図的に名称など、お客様を騙そうと思えば出来ないことはない。

業界はそのようなことが平気で横行し、通用していた時代があったけれども、もうそんなことが許される時代ではないのである。売上げや利益がどんなに苦しくても、全うな姿勢を貫いていくところこそが、最後の最後には生き残るのだ。



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